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東京地方裁判所 平成10年(行ウ)7号 判決

原告 A野太郎

右訴訟代理人弁護士 福家辰夫

同 鈴木克巳

右訴訟復代理人弁護士 柏木栄一

被告 世田谷区長 大場啓二

右指定代理人 内山忠明

〈他3名〉

主文

一  本件訴えのうち、別紙図面三記載のA・B・C・D・E・Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地以外の土地について、建築基準法四二条二項に基づく被告の指定処分が存在しないことの確認を求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

1  原告

別紙物件目録二記載の土地について建築基準法四二条二項の規定に基づく被告の指定処分が存在しないことを確認する。

2  被告

(本案前)

主文第一項と同旨

(本案)

原告の請求を棄却する。

第二事案の概要

本件は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)のうち、別紙図面一のA野太郎賃借地と記載された部分(以下「原告賃借地」という。)の借地権を有する原告が、本件土地の一部である別紙物件目録二記載の土地(以下「本件通路」という。)は、被告が建築基準法(以下「法」という。)四二条二項の規定に基づく道路として一般的に指定することを定めた告示所定の要件に該当しないとして、本件通路につき、右指定処分が存在しないことの確認を求めたものである。

一  前提となる事実(当事者間に争いのない事実である。)

1  本件土地は、宗教法人B山寺(以下「B山寺」という。)が所有する土地であり、現況では、別紙図面一記載のとおり分割されて、原告らに賃貸されている。なお、本件土地のうち本件通路部分については、C川松夫及びD原竹夫が賃借人となり、賃料を支払っている。

2  法四二条二項によれば、同条一項各号所定の「道路」に該当しない道であっても、法三章の規定が適用されるに至った昭和二五年一一月二三日(以下「基準時」という。)において、現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で、特定行政庁の指定したもの(以下「二項道路」という。)は、同条一項の「道路」とみなされ、その中心線から水平距離二メートルの線が道路の境界線とみなされるとされている。

東京都知事は、昭和三〇年七月三〇日東京都告示第六九九号「建築基準法第四十二条二項の規定による道路の指定」により、包括的な二項道路の指定をしていたが、その後、法施行令一四九条二項二号の改正(昭和四九年六月政令第二〇三号)によって、昭和五〇年四月一日以降は、被告が世田谷区の区域内において法四二条二項所定の特定行政庁としての権限を有することになった。

そこで、被告は、昭和五〇年四月一日東京都世田谷区告示第三四号「建築基準法第四十二条第二項の規定による道路の指定」(以下「本件告示」という。)をもって、世田谷区の区域内で、右告示の要件を満たす道の全部を一括して二項道路とする旨の指定(以下「本件指定」という。)をしたが、基準時において、現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で、本件告示三号本文の定める「基準時において、現に存在する幅員四メートル未満一・八メートル以上の道で、一般の交通に使用されており、その中心線が明確であり、基準時に、その道のみに接する建築敷地があるもの」との条件(以下「指定条件」という。)を満たす道は、本件指定により二項道路とする旨の指定がされたことになる。

3  基準時において本件土地は、B山寺が所有していたが、別紙図面二記載のとおり分割して原告、E田梅夫(以下「E田」という。)、A田春夫(以下「A田」という。)及びD原竹夫(以下「D原」という。)に賃貸され(以下、それぞれの賃借地を「E田賃借地」などという。)、それぞれの賃借地には家屋が存在していた。なお、A田及びD原の借地上の建築物は一棟のいわゆる二軒長屋(以下「本件長屋」という。)であり、二個の所有権登記がされていた。

基準時において本件通路は、幅員がいずれの地点においても一・八メートル以上あり、東側で公道に接していた。

二  争点及びこれに対する当事者の主張

本件の争点は、原告の訴えのうち、別紙図面三記載のA・B・C・D・E・Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地以外の土地、すなわち、原告賃借地を除く部分及びすみ切り部分について本件指定が存在しないことの確認を求める部分が適法であるかどうか(争点1)及び本件通路が基準時において指定条件を満たすものであったかどうか(争点2)であり、右の各争点に対する当事者の主張は、以下のとおりである。

1  争点1(原告の訴えのうち、原告賃借地を除く部分及びすみ切り部分について本件指定が存在しないことの確認を求める部分が適法であるかどうか)について

(被告の主張)

(一) 原告は、本件通路について、本件指定が存在しないことの確認を求めて訴えを提起しているが、原告は本件土地のうち原告賃借地について、当該土地の所有者であるB山寺から賃借しているのであって、その余の土地については権利を有していない。

他方、法上の道路の指定は可分であり、かつ、その各部分を特定しうるものであるから、その一部のみについてその不存在の確認を求める訴えが許されないわけではないというべきである。したがって、原告としては、その賃借権が及ぶ範囲の土地に関する部分のみについて本件指定が存在しないことの確認を求めることができ、かつ、それをもって足りるというべきであって、それを超える部分についてまでその確認を求めることは、その利益がなく許されないものというべきである。

(二) 法四二条二項によれば、同項の規定に基づき特定行政庁の指定した道路は、その中心線から水平距離二メートルの範囲が道路とみなされるのであって、別紙図面三記載のイ・ロ・c・イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地及びE・D・ハ・Eの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地(すみ切り部分)は、いずれも元来道路とみなされることはなく、被告においても当該部分を道路であると判断してはいない。

右のとおり、右土地部分について本件指定が存在しないことは当事者間に争いがないから、原告が右土地部分について本件指定が存在しないことの確認を求める利益は存在しない。

(原告の主張)

原告賃借地を除く部分及びすみ切り部分について本件指定が存在しないことの確認を求める訴えが不適法であるとの被告の主張は争う。

2  争点2(本件通路が基準時において指定条件を満たすものであったかどうか)について

(被告の主張)

(一) 本件通路に接する建築敷地について

(1) 基準時当時、A田及びD原の家屋(本件長屋)の敷地から公道に通ずる道として本件通路があり、同家屋の敷地が接する道は本件通路のみであった。また、本件通路の北側にあるE田賃借地及び南側にある原告賃借地にもそれぞれ家屋が建築されていた。

したがって、本件通路は、法四二条二項に規定する「現に建築物が立ち並んでいる」との要件及び指定条件の「基準時にその道のみに接する建築敷地があるもの」との要件に該当する。

(2) 原告は、本件通路は、A田及びD原の一棟の建築物の敷地部分であり、法四二条二項に規定する「現に建築物が立ち並んでいる道」との要件を具備しないと主張する。

しかし、基準時当時、本件通路の周囲には、E田賃借地及び原告賃借地上にも建築物が立ち並んでいたことからすれば、本件通路は、右要件を具備するというべきである。

また、以下に述べるとおり、A田及びD原の家屋である本件長屋は、物理的構造的に一棟の建築物であるとしても、法上は二個の建築物と考えることもできるのであるから、基準時当時、本件通路の周囲には四個の建築物が存在したといいうる。

すなわち、法における建築物の個数の決定については、民法、不動産登記法、建物の区分所有等に関する法律等における建物の個数決定の基準をも参考にしながら、結局は社会通念により決するほかはないとされているところ、民法上の建物の個数決定の基準につき判例は、「建物モ亦物権ノ目的物トシテ取引ノ対象ト為ル以上其ノ個数ヲ定ムルニ当リ取引上ノ性質ヲ無視シ得サルハ勿論ノ次第ニシテ取引或ハ利用ノ目的物トシテ観察シタル建物ノ状態ノ如キモ亦其ノ個数ヲ定ムルニ付重要ナル資料タスモノト云フヘシ而シテ此等ノ状態ヲ判定スルカ為ニハ或ハ其周囲ノ建物トノ接着ノ程度連絡ノ設備四辺ノ状況等客観的事情ヲ参酌スルハ素ヨリ或ハ之ヲ建築シ所有スル者ノ意思ノ如キ主観的事情ヲモ考察スルヲ必要トスルモノニシテ単ニ建物ノ物理的構造ノミニ依リテ之ヲ判断スヘキモノニアラス」と判示しているが(大審院昭和七年六月九日判決民集一一巻一三号一三四一頁)、この判例は法における建築物の個数の決定についても重要な指針となりうるものである。

本件長屋についてみるに、A田の居住部分とD原の居住部分は利用上はそれぞれ独立した建築物として使用されていたものであり、それぞれの別個の保存登記がなされ、取引も独立して行われていたのである。それに加えて、昭和三七年頃には本件長屋は実際に二つの建築物に分離されているものである。このような事情を右判例の趣旨に照らして考えれば、本件長屋は物理的構造的に一棟の建築物であるとしても、社会通念上二個の建築物と考えることもできるのである。

したがって、本件通路は前記の要件を具備するというべきである。

(二) 本件通路が一般の交通に使用されていたことについて

基準時当時、本件通路は、A田及びD原の家屋の唯一の公道に通じる道としてそこに居住する者及びこれを訪問する者などにより、生活上必要となるすべての交通の用に使用されており、また、原告宅の北西側勝手口に通じる道として、配達される購入日用品の搬入や近隣などの訪問者が通行する道として使用されたほか、原告宅の北西側便所のくみ取り作業をするためにも必要な道として使用されていたものであり、かつ、その関係権利者も本件通路を私道であると認識し、これを道として使用してきたものである。

このように、本件通路は居住者その他の者が自由に通行することのできるものとして解放され、一般の交通に使用されていたのであるから、指定条件の「一般の交通に使用」されているという要件を満たすものというべきである。

この点、原告は、本件通路はA田及びD原の本件長屋の敷地にすぎないと主張するが、B山寺は基準時前から一貫して本件通路を本件土地の各敷地のための道路であると理解して各敷地を賃貸していたこと及び右の使用関係からすると、本件通路は敷地内の通路とは明らかに異なるものである。

(三) 本件通路の中心線について

基準時当時、E田賃借地と本件通路との境界には板塀が設けられ、本件通路はその塀の南側に幅七尺の道として存在していたものであり、この点についてはB山寺及び本件土地の関係権利者の間に争いはなかった。

また、原告は原告宅の勝手口前の板囲いが本件通路に突き出ていることを指摘され、疑念をはさむことなく自ら板囲いの移設をしており、原告が昭和三九年に住居を改築した際にも、境界線の位置に沿ってブロック塀を設けている。

右の事実からすると、本件通路の中心線は明確である。

(四) 以上のとおり、本件通路は、基準時において、幅員が四メートル未満一・八メートル以上の道で、一般の交通に使用されており、その中心線が明確で、基準時に本件通路のみに接する建築敷地が存在するから、本件通路は本件告示の定める指定条件を満たす道として、本件指定により二項道路とされたものである。

(原告の主張)

(一) 本件通路に接する建築敷地について

(1) 本件通路は、A田及びD原が所有する本件長屋の一棟の建物の敷地の一部であり、それが通路状になって東側公道に接道していたものである。そして、本件通路は、A田及びD原が賃借し、両名において賃料をB山寺に支払っていたものである。

したがって、本件通路は専ら本件長屋を所有していたA田及びD原の賃借する敷地の一部であり、その居住者がこれを使用していたものにすぎず、法四二条二項に定める「現に建築物が立ち並んでいる」という要件をみたすものではない。

なお、原告賃借地及びE田賃借地はいずれも東側において公道に接道しており、法四三条一項の接道義務も東側の公道によって満たされていた。そのうえ、原告及びE田並びにその家族らは本件通路を使用していなかったのであるから、原告宅及びE田宅が存在することをもって建築物が立ち並んでいると評価することはできない。

(2) 法四二条二項に規定されている「現に建築物が立ち並んでいる」との要件を具備しているといえるためには、当該道を中心に建築物が寄り集まって市街地の一画を形成し一般通行の用に供され、かつ防災、衛生等の面で公益上重要な機能を果たす状況にあることを要するものと解すべきである。

しかるに、基準時において、A田及びD原の家族ら特定の関係者以外に本件通路を通行するものはなく、本件通路は、一般の交通に使用されてはおらず、単にA田及びD原が所有する本件長屋の一棟の建物の敷地の一部にすぎなかったのであるから、本件通路が右の要件を満たしていないことは明らかである。

また、二項道路の指定は、その対象となる土地の所有者その他の利害関係人の意思にかかわりなく、特定行政庁がその職権により公権力をもって一方的に行うものであり、その結果、一方で個人の財産権の内容に一定の制約を加えるという効果を生ずるのであるから、特定行政庁がこれを行うには、そのようにするに足りる公益上の必要性が存在することを要すると解すべきであるが、本件において、右公益上の必要性が存在しないことは明らかである。

(3) 被告は、A田及びD原の所有していた建物が二軒長屋(本件長屋)であり、かつ、二個の所有権登記がされていたことから二個の建築物であると主張するが、右は一棟の建物であり、昭和三八年四月に「建物の区分所有に関する法律」が施行されるまではいわゆる区分所有建物についての登記方法が存在しなかったために二個の所有権登記がされたにすぎない。

したがって、本件長屋が存在していたことをもって、法四二条二項にいう別個独立の建物が立ち並んでいるものとみることはできない。

(二) 本件通路が一般の交通に使用されていなかったことについて

本件通路は、基準時において、A田及びD原の両家族のみが使用する敷地内の通路であって、行き止まりの通路であり、右の者以外には本件通路を使用する者はいなかった。

本件通路の北側にはE田賃借地が存在し、E田賃借地上には建物があったが、E田賃借地と本件通路の間には板塀があり、その板塀には出入り口はなかった。本件通路の南側には原告賃借地があり、原告賃借地と本件通路の間には塀などの仕切はなく、また、原告宅には北側に勝手口が存在したが、原告宅は、本件通路と原告賃借地の境界から九〇センチメートル程度離れており、原告及びその家族は原告賃借地のみを通って東側の公道に出ることが可能であった。このように、原告賃借地及びE田賃借地はいずれも東側において公道に接道しており、原告及びE田並びにその家族は、本件通路を通行する必要はなく、本件通路を通行したことはほとんどなかった。

したがって、基準時において、本件通路が一般の交通に利用されていたということはできない。

(三) 本件通路の中心線について

基準時において、本件通路と原告賃借地の間には確然とした境界はなく、本件通路の北側にあるE田賃借地との間の境界も明確ではなかったから、その中心線が明確であったとはいえない。

(四) 以上のとおり、本件通路は本件告示の定める指定条件を満たすものではなく、本件指定により二項道路とされたものということはできない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件訴えのうち、原告賃借地を除く部分及びすみ切り部分について本件指定が存在しないことの確認を求める部分が適法であるかどうか)について

本件訴えは抗告訴訟である無効確認等の訴え(行政事件訴訟法三条四項)の範疇に入るものと解されるところ、無効確認等の訴えの原告適格は、当該処分の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者等、同法三六条に規定する者に限り認められるものである(同法三六条)、しかして、法四二条二項に基づき特定行政庁が一定の要件を満たす道路を包括的に同項の道路とする旨の一般的指定をした場合において、特定行政庁が右一般的指定の要件を満たし法四二条二項の道路に該当するとされた道の敷地につき所有権、賃借権等の権利を有する者は、その敷地について右一般的指定が存在しないこと(その敷地が右一般的指定の要件を満たさないこと)の確認を求める利益を有するが、無効等確認の訴えはその確認を求めることにより右一般的指定の効力により侵害された自らの権利ないし法律上の利益を回復するために認められるものであるから、右敷地について所有権等の権利を有する者が右一般的指定が存在しないことの確認を求めることができる範囲は自らの侵害された権利を回復するに必要な範囲に限られるものと解するのが相当である。

本件についてみるに、前記第二の一記載のとおり、原告が本件指定が存在しないことの確認を求めている本件通路のうち、別紙図面三記載のA・B・C・D・ハ・E・Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地は原告が賃借する土地であるが、それ以外の別紙図面三記載のa・b・イ・ロ・c・C・B・A・aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地については原告は何ら権利を有していないことが認められる。

したがって、原告は、本件通路のうち自らが賃借権を有する別紙図面三記載のa・b・イ・ロ・c・C・B・A・aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地について本件指定が存在しないことの確認を求める原告適格を有するが、本件通路のうちそれ以外の土地については右の確認を求める利益を有しないというべきである。

また、法四二条二項によれば、同項に基づき特定行政庁が指定した道は、その中心線から水平距離二メートルの範囲が同条一項の道路とみなされるものであり、同条二項の指定に基づく道路についてすみ切りを要する旨定めた法及びこれに基づく政令、省令の規定は存在しないのであって、本件通路が本件告示の定める要件を満たし同項の道路に該当するとした場合に、別紙図面三記載の図面中イ・ロ・c・イの各点を順次結ぶ直線及びE・D・ハ・Eの各点を順次結ぶ直線で囲まれた両土地が道路とみなされることはなく、被告も本訴において当該部分が法四二条二項の道路でないことを認めているものである。

したがって、原告は、右土地部分については、本件指定が存在しないことの確認を求める利益を有しないというべきである。

二  争点2(本件通路が基準時において指定条件を満たしていたかどうか)について

1  前記第二の一記載の前提となる事実に《証拠省略》をあわせてみれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件土地は、B山寺が所有する土地であり、かつては、B野夏夫ほか三名(以下「B野ら」という。)が本件土地を一括してB山寺から賃借して家屋を建築し、それを賃貸していたものである。その後、B野らは、右家屋を売却し、それに伴って本件土地上の借地権も分割されることになった。

基準時においても、本件土地はB山寺が所有しており、別紙図面二記載のとおり分割して、原告、A田、D原及びE田に賃貸され、それぞれの賃借地には家屋が存在していた。なお、A田賃借地及びD原賃借地上の家屋はいわゆる二軒長屋であり、一棟であった。

(二) 本件土地には、E田賃借地及びA田賃借地から東側の公道に通じる本件通路が存在した。本件通路は、七尺(約二・一メートル)の幅を有し、その南側がD原賃借地及びA田賃借地に接しており、本件通路の北側にはE田賃借地、南側には原告賃借地が存在した。本件通路の敷地部分は、D原及びA田がB山寺より賃借し、同人らがB山寺に賃料を支払っていた。本件通路には、東側の公道と接する部分に門扉や門柱その他本件通路の敷地が私有地であることを示す標識は何もなく、本件通路の西端にある後記のD原家及びA田家の門まで通行の支障になる何物もなく、誰でも自由に通行できるようになっていた。

(三) E田賃借地上の家屋は、東側の公道に面して玄関があり、E田賃借地と本件通路の境界には、板塀があった。この板塀には、出入り口はなく、E田賃借地から本件通路へ直接出入りすることはできなかった。E田賃借地とA田賃借地との境界には、竹を割ったものを並べたような塀があった。

(四) A田賃借地及びD原賃借地上の家屋は、右のとおり一棟であったがいわゆる長屋の形式であり、平屋建ての一棟の建物を東西の壁で二つに区切り、南側部分にD原の家族、北側部分にA田の家族が住み、それぞれの玄関は、D原宅は東南側の角に、A田宅は東側の中央付近にあった。右家屋の敷地が接する道は本件通路のみであり、D原家及びA田家のそれぞれの居住者並びに両家への訪問者は、東側の公道へ又は同公道からの出入りについてもっぱら本件通路を利用していた。なお、A田賃借地とD原賃借地の間は塀で仕切られており、本件通路に面してそれぞれの門が設置されていた。

A田賃借地及びD原賃借地上の家屋は、二個の所有権登記がなされ、家屋番号も八二番及び八二番二と別個に付されていた。

D原は、昭和一六年以降、B野らから右家屋を賃借して居住していたが、昭和二三年頃、B野らから右家屋のうちD原が居住する部分の所有権及びそれに係る借地権を取得したものである。

A田は、昭和二五年五月三〇日ころ、B野らから右家屋の北側部分の所有権及びそれに係る借地権を取得したC山秋夫から、右家屋部分の所有権及び右借地権を取得したものである。

(五) 原告は、昭和二四年三月ころ、原告賃借地上の家屋の所有権及びこれに係る借地権を取得して、右家屋に居住を始めた。

原告の家屋は、東側の公道に面して玄関があり、北側には本件通路に面して勝手口があった。原告賃借地と東側の公道の間には玄関の部分を除いて生垣があり、また、原告の家屋の北東の角から東側公道までにも生垣があった。原告賃借地とD原賃借地の境界線には、柵が設置されていた。

原告の家屋の勝手口には、勝手口を囲うように高さ一六〇ないし一七〇センチメートル、東西の長さ一七〇ないし一八〇センチメートル、南北の幅一〇〇ないし一一〇センチメートルで、下部は空洞になったコの字型の板塀が設置されており、その板塀の東側部分は木戸になっており、本件通路へ出ることができた。右の勝手口は、酒屋などが原告宅に注文を取りに来るときや商品を配達するときなどに利用され、また、東側公道に面した玄関が閉まっているときに訪問客が勝手口から訪問する時などに利用されていたものであるが、その際、酒屋や訪問客等は本件通路を通って勝手口に出入りしていた。

また、原告の家屋の北西角には、し尿のくみ取り口があり、そのくみ取り業者も、本件通路を利用し作業をしていた。

昭和三三年ころになって、D原から、勝手口前の板塀が原告賃借地から本件通路上にはみ出しているという指摘を受けた原告は、元々勝手口の前にコンクリートが敷いてあった位置まで右板塀を後退させた。

原告賃借地には本件通路上ないし本件通路との境界に沿って右板塀があったが、本件通路と原告賃借地の境界を示す塀や生垣などは存在せず、両者の境界は一見しただけでは明らかでなかった。

(六) 基準時の後である昭和三六年ないし三七年ころ、A田から家屋の所有権を譲り受けたD川冬夫は、その家屋をD原の家屋に接する部分から六〇センチメートル程度除却することによって、両家屋を切り離した。

(七) 原告は、昭和三九年ころその家屋を改築し、同時に、本件通路と原告賃借地の境界にブロック塀を作ったが、その際、本件通路を七尺(約二・一メートル)であるとしてブロック塀の位置を決めた。

昭和五八年一二月一二日に測量した結果では、本件通路の幅は二メートル一二センチないし二メートル一三センチであった。

2(一)  前記1に認定した事実によれば、基準時当時、D原及びA田の家屋は一棟の建物ではあったが、右建物は東西の壁で二つに仕切られて、それぞれに玄関やトイレが付設されており、南側部分をD原が、北側部分をA田がそれぞれ当該家屋に係る借地権付きで所有し、D原、A田がそれぞれ別個の借地権者であり、また、右建物のD原所有部分とA田所有部分とはそれぞれ別々に所有権の登記がされ、家屋番号が付されていた。

ところで、法は、建築物の敷地は道路に二メートル以上接しなければならないとし(法四三条一項本文)、かつ、法上の道路は幅員四メートル以上のものと規定した(法四二条一項)のため、法施行時において幅員四メートル未満の道のみに接する敷地に存する建築物は、法施行後において再建築等をすることが不可能となるが、市街化した地域においては、すべての既存の道を拡幅し、法四二条一項各号の道路とすることは実際上は著しく困難であった。しかるに、法施行時において幅員四メートル未満の道路で一般の交通の用に供され、防災、安全等公益上重要な機能を果たしてきたものは多数存在したのであり、法施行時において幅員が四メートル以上の道のみを法上の道路とし、それに満たないものは一律に法上の道路とは認めないこととすれば、かかる道路の関係権利者にとって著しく不都合な結果が生ずることは明らかであった。そこで、法の立法者は、かかる不都合を解消するため、法四二条二項において、同項の要件を満たし、特定行政庁が指定するものにつき、同条一項の道路とみなす旨の特例措置を設けたものであると解される。

右規定の趣旨に照らすと、右のような建築物の関係権利者を救済することに二項道路の存在意義があるのであるから、法四二条二項の規定する「現に建築物が立ち並んでいる」の要件を満たす道に該当するかどうかの判断に当たっては、当該道の周辺の状況等を総合的に判断すべきことはもちろんであるが、当該道のみによって接道義務を充足する建築物が二戸以上存在する場合には、原則として右要件を満たすものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、基準時において、D原及びA田の家屋は本件通路によってのみ東側の公道に通じており、一棟ではあったが、東西の壁で分離され、玄関がそれぞれ別であるなど機能的、構造的に別個となっており、また、D原及びA田はそれぞれが別個の借地権を有する者であり、右建物の各所有部分についてそれぞれ別個の所有権登記を経ていたものであり、改築、再建築をする場合には、当然別棟の建物とすることも想定される状況にあった。加えて、本件通路には東側公道と接する部分に門扉等がなく、D原及びA田の家屋の居住者及びその関係者のほか、原告家屋の居住者及びその関係者も本件通路を利用していたことからすれば、本件通路は、原告賃借地上の家屋を含めて道路としての機能を担っていたものということができる。

以上を総合的にみると、本件通路は基準時において、「現に建築物が立ち並んでいた」との要件を満たすものであったというべきである。

(二) また、前記1に認定した事実によれば、本件通路と東側の公道の境界には、門扉や門柱その他本件通路の敷地が私有地であることを示す標識は全くなく、むしろ本件通路とA田賃借地及びD原賃借地との境界に門が設置されていたのであり、本件通路は一般に開放され、何人も本件通路を通行することができたものといえる。そして、D原及びA田の家屋の居住者及び右の訪問者が本件通路を利用していたのみならず、本件通路に面した原告宅の勝手口から出入りする酒屋等の御用聞きや原告宅の訪問客も本件通路を利用していたし、原告宅のし尿のくみ取り業者もその作業のため本件通路を利用していたものである。

そうすると、本件通路は一般の交通に使用されていたものということができる。

この点、原告は、原告の家屋は、本件通路と原告賃借地との境界線から九〇センチメートル程度離れており、原告及びその関係者は、原告賃借地内のその部分を通行していたのであって、本件通路を利用していなかった旨主張するが、前記1に認定したとおり、本件通路と原告賃借地との境界線を示すものはなく、一見しただけではその境界は明らかではなかったのであるから、原告賃借地内のみを通行していたとは考え難く、原告の右主張は採用することができない。

(三) さらに、前記1に認定した事実によれば、本件通路とE田賃借地との境界線には板塀があり、B山寺は本件通路を幅七尺(約二・一メートル)として賃貸していたのであり、また、原告賃借地と本件通路との境界については、基準時に原告の家屋の勝手口前の地面にはコンクリートが存在し、昭和三三年ころD原から勝手口の板塀が本件通路のはみ出している旨の指摘を受けた際に、右コンクリートの位置まで板塀を後退させ、その後は本件通路にはみ出している旨の指摘を受けていないこと、原告が昭和三九年ころ原告賃借地と本件通路との境界線上にブロック塀を築造した際に、本件通路の幅員が七尺(約二・一メートル)であることを前提としていたことからすると、右の勝手口前のコンクリートの位置が原告賃借地と本件通路との境界線であり、原告らもそのことを認識していたことがうかがわれる。

以上からすると、基準時において、本件通路の境界線は明確であり、その中心線もまた明確であったものというべきである。

3  したがって、本件通路は、基準時において、幅員が四メートル未満一・八メートル以上の道で、一般の交通に使用されており、その中心線が明確で、基準時に本件通路のみに接する建築敷地が存在するから、本件通路は本件告示の定める指定条件を満たす道として、本件指定により二項道路とされたものであると認められる。

第四結論

以上の次第で、本件訴えのうち、別紙図面三記載のA・B・C・D・E・Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地以外の土地について、本件指定が不存在であることの確認を求める部分は不適法であるからこれを却下することとし、原告のその余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 谷口豊 加藤聡)

〈以下省略〉

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